頭蓋解剖物語

ボロボロ書きます。剥がれ落ちる私を。

随筆

夏の書留

今年も夏が終わったと。そう感じたのは台風が過ぎ、取り残された湿り気が夏の熱を彷彿とさせた時だった。 耳をすませば、世界は秋に囲まれていた。真向かいの縁側から響く風鈴も、甲高い蝉の音も。ひどく寂しくなったと共に、今年の夏は長崎に行ったり海に行…

血も泪もあるんだよ。

愛したからこそ、出てきてくれるのだと思う。あなた達も、綺麗な泪も。 誰かのためでないと本気を出すことができない。誰かのため、という名目がなければ本気を出すこともできない。そんな風に考えていた自分が、その生き方を変えられて死んだのは、もう6年…

梅雨の残り香

もう夏だと捉えるか、まだ梅雨だと捉えるか。そう問われたならば、僕は、まだまだ梅雨だと言いたい。 履かなかった長靴、マジックテープの擦れた傘、干したままの雨合羽。そのどれもがまだ、梅雨を知らずに眠っている。彼らを起こすべき時は多々あったが、そ…

熱中症

受け入れる。という事は、絶望による諦観か、はたまた希望のための忍耐なのか。 刺すような暑さに包まれる、夏の始まり、日にさらされたサドルに腰かけてペダルを回す。その時、日に焼ける事をいとわず、汗をかく前に到着しようとするのか。はたまた、日焼け…

木古

雨を受けた春の輝きが脳裏に鮮明に残っている。あれだけ泣いていた空は晴れ渡り、額に流れるのが汗に変わった。 あれだけ咲いていた春の花々も、夏の暑さに萎れて、残ったのは細々と枯れるのを待つばかりで、その結末を辿る花は、黒く伸びる影を受け入れるよ…

書留

彼はまともな人でした。 彼女は素敵な人でした。 そんなの、とっくに知っている。 彼がそんな状況だったなんて。 彼女にとって苦だったなんて。 そんなの、誰も知りえない。 今はただ、悔しいです。 心の整理が付きません。 そんな言葉、よく言えたな。 きっ…

おあいにく様。

お酒を呑んだ時にのみ、私は私で在れる気がする。 などと私はいつか、そんな風に嘆いていた。 正確に嘆いていたかは分からない。それを喜んでいたのかもしれないし、予想外の出来事と捉えていたかもしれない。それを読み取ろうにも黒鉛の文字からは何も心情…

随想

私はよく、傍観している。ような気がする。 今日未明、と言うには少々朝方だが、確か私は傍観者で良い。みたいな発言をしたような気がする。 いつから傍観者だったか。そういうのはあまり覚えていない。ただ、私が初めて傍観者となったのは言うまでも無く友…

明星

寒冷の冬月。刻々と浮かぶ暗黒の月に、白い吐息が被っておぼろ。 私は今、この街の中で一番空に近いだろう。 曖昧なのは下を見るのが怖いから。だから空を見上げて逃げた。 風が吹くと足場が揺れ、灰色の布が大きく靡く。とび職の度胸強さが伺える。やはり足…

はかなき

時折、自分が分からなくなる時がある。 降り止まぬ雨滴を窓から眺めている時。 サドルの上で周囲に注意を巡らせている時。 大きな書店の中で好きな作家を探している時。 目が覚めた朝の天井を見上げている時。 何かを眺めている時。何かを見ている時。そんな…

日記に書いてあったから。

空っぽの感覚だった。 生と死の狭間というのは月並みな言葉だ。 全身が冷え切っていた。右手だけが動き、左手は枕にしたため血液が絞られていた。 右手で身体をつねると、私の体では無い気がした。 雪も灰もつもらぬ冬。木枯し貫き鳴く閑古鳥。透明な吐いた…

新月の探し物。

先生が好きだ。 昔を語って様になる歴史の先生が好きだ。 言葉の尊さを書く現代文の先生が好きだ。 人間についてを描く倫理の先生が好きだ。 世界の広さを広める英語の先生が好きだ。 親身になってくれる担任の先生が好きだ。 そんな先生たちの元へと、私は…

人を書くということ。

生きてきた中で、色んな人たちがいる。それは良い関係性を築けた者から拳で殴り飛ばした者まで様々な人達がいる。そして、そんな彼らはその良し悪しを問わず、私という人間を形成する上で多大なる影響をもたらした人達だ。 そんな方々を、そんな方々との関わ…

白い吐息を昇らせながら。

秋から冬へと移ろう時。フッと流れたため息が白い吐息に変わる時、その吐息を見ると私の心にはふと「ミルクセーキ」がよぎる。 知っている人は知っている。自動販売の一番上。あったか〜いの赤い文字の欄に並んでいた100円のミルクセーキ。暖かくてまろやか…

幼少期の不思議な話。

「い〜けないんだ!いけないんだ!せ〜んせいにいっちゃ〜お!」という言葉を聞いたことはあるだろうか。まぁ、聞いたことのない人はあまりいないと思う。「かたつむり」という手遊びを知っているだろうか。もしくは「割りばし」の方が認知度が高いだろうか…