風の吹かぬ、息を止めるような暑さも。その暑さに照り輝いた青葉も。静かに静かに散っていった。
夏の散り際すらも、秋は攫っていった。
「もう終わりだね」
秋はきっと,彼女も攫っていったのだろう。
彼女が歩けば、蝉が笑った。雲が威嚇した。雨は帰っていき、向日葵が顔を上げた。
彼女が歩いたその道に、ふんわりと漂う残り香に、人々は四季と名付けた。春と、夏と、秋と冬と。朝起きて、感じる空気に名を付けた。
君は歩くスピードが遅い。だとか。
肩を並べて歩く彼女の顔は、なんとも嫌そうで、歩いていて申し訳なくなる僕の顔も、同じように歪んでいたのだとか。
好き勝手言っていた。
僕は彼女のことを信じていなかった。
夏から秋に移ろい始めて、僕は彼女と会わなくなった。会う時間が減った。夏休みは残りわずかで。師走を前にして僕は焦っていた。
鼻が秋を感じ始めた。耳が秋に気付き始めた。目が秋を見付け始めた。
秋を知れば知るほどに。
夏はキりトられていた。
君はまたね。とは言わなかった。
僕もまたね。とは言えなかった。
強い風が吹き、長き秋雨が始まって、夏の小袖がゆったりと意味を持ち始めた。
今日から、見知らぬ秋を嗅ぐ。