頭蓋解剖物語

ボロボロ書きます。剥がれ落ちる私を。

香る秋。

 風の吹かぬ、息を止めるような暑さも。その暑さに照り輝いた青葉も。静かに静かに散っていった。

 夏の散り際すらも、秋は攫っていった。

 

「もう終わりだね」

 

 秋はきっと,彼女も攫っていったのだろう。

 彼女が歩けば、蝉が笑った。雲が威嚇した。雨は帰っていき、向日葵が顔を上げた。

 彼女が歩いたその道に、ふんわりと漂う残り香に、人々は四季と名付けた。春と、夏と、秋と冬と。朝起きて、感じる空気に名を付けた。

 君は歩くスピードが遅い。だとか。

 肩を並べて歩く彼女の顔は、なんとも嫌そうで、歩いていて申し訳なくなる僕の顔も、同じように歪んでいたのだとか。

 好き勝手言っていた。

 僕は彼女のことを信じていなかった。

 夏から秋に移ろい始めて、僕は彼女と会わなくなった。会う時間が減った。夏休みは残りわずかで。師走を前にして僕は焦っていた。

 鼻が秋を感じ始めた。耳が秋に気付き始めた。目が秋を見付け始めた。

 

 秋を知れば知るほどに。

 夏はキりトられていた。

 

 君はまたね。とは言わなかった。

 僕もまたね。とは言えなかった。

 

 強い風が吹き、長き秋雨が始まって、夏の小袖がゆったりと意味を持ち始めた。

 

 今日から、見知らぬ秋を嗅ぐ。

おてがみ。

 拝啓、四季は八回転。

 吐息は力無く澄んで雪、探し物を思い出す季節。

 ありもしない残り香を期待して、各地を巡ってみたはいいものの、結局、僕はここにいる。

 君の墓前に僕はいる。

 目覚めて起きた分岐点。過ぎた時間を後悔と呼んだ。白い布を現実と呼んだ。二つにズレた僕の心を、誰にも言わず棺桶に入れた。

 入れたつもりだった。

 片手にスマホを持ちながら、スマートフォンを探すように、持ってるものを無くしていた。

 Twitterを閉じてはまた開くように、何度も何度も、離れられなくなっていた。

 ようやくそれを見つけた時、絵の具に垂らした水滴が、パレットの白を映すように。世界が小さく弾けて晴れた。

 水に、ガラスに、色があった。把握と理解の差を知った。前に進むべき道も、出来なかった寄り道も思い出せる。

 どこにもいない。今ここに。

 あなたが生きた。証の前に。

              敬具

 

 追伸、さよなら暇乞い。貴方と貴女と僕に捧ぐ。 

清く正しく。

 人から最初に言われるのは「楽観的」とか「勢いが凄い」とか「あんまり不自由なさそうね」とか。

 立ち振る舞いをそうしているから、言葉遣いを使い分けてるから。そう見えているんだろうな。と、つくづく当然のことを思います。

 私が住む家を見て、誰かが「おぉ…」と言いました。

 私の扱いを見て、誰しもが「えぇ…」と言いました。

 この、ギャップ。と呼んで良いものなんでしょうか。言葉に疎いので判断しかねますが、僕はこのギャップが好きです。

 血は繋がっていません。二階建てのこの家に僕の部屋はありません。お給料の半額を家に入れて,自分の携帯代や食費は自分で払っていて、段ボールに囲まれた物置で暮らしています。電気もありません。

 息を吸う間を与えずに、そんな私の身寄りの事実を突きつけるのが好きです。

 そうして、人が離れていく。というか、僕を見る目が180度変わる。といいますか。私が立ち振る舞いとか言葉遣いで積み重ねてきた全てが崩れ去る。うん。そんな瞬間が好きです。

 夢も希望も見せられない。歩いてきた軌跡は足跡なんて綺麗なものじゃない。茨の道を何の気なしに裸足で歩いてみた。そんな、鮮血のレッドカーペット。

 あの家が。あの家族が。おかしいんじゃない。僕もまた、おかしい人なんです。

 正しく、狂いのない人間なんかじゃない。歪んででも狂ってはいけないとそう思い込んでいるんです。

 今更、正しくなんか。なれないのです。

一緒。

 ざあざあと降る雨たちは、生まれた時から地に落ちることが当然で。その瞬間瞬間の生き様を、瞬く間もなく直滑降。


 誰かが呼んだか水たまり。人が見惚れる逆転の世界。


 身を寄せ合った、落ちた雨たち。映すは裏の空の青、絵のような空の事。


 あの空には戻れない。

 けれどこのまま落ちて良いのか。

 止まってしまって木の葉の雫。落ちきれなかった不適合。生まれた空は青いまま、背中を指す声なすがまま。

 

 空も大地も四面楚歌、居場所を無くして右往左往。目を見張る事四十九日、同じ境遇の肩を知る。

 流転に嫌った木の葉の雫。いつか僕らも落ちれるように、身を寄せあって光を受ける。

 思い描く空は違えど、空を映したいのはきっと