頭蓋解剖物語

ボロボロ書きます。剥がれ落ちる私を。

はかなき

 時折、自分が分からなくなる時がある。

 降り止まぬ雨滴を窓から眺めている時。

 サドルの上で周囲に注意を巡らせている時。

 大きな書店の中で好きな作家を探している時。

 目が覚めた朝の天井を見上げている時。

 何かを眺めている時。何かを見ている時。そんなふとした瞬間にそれは背中に張り付いていて、私は首を引き抜いては中身と我が身を比較する。

 綺麗な綺麗なパズルがあった。完成して、糊付けして、額に入った三毛猫のパズル。

 座って空を見る猫一匹、廊下の壁にて飾られて。

 立って届かぬガキ一人、首を抑えて見上げてて。

 そのまま育って幾星霜。気付けばネコは下にいた、見上げて見えるは木目のみ。

 ネコを見下す形になった。視線の交錯ありはせず。

 輝いていたのは猫だった。首の痛みもどこへやら。

 いつからか、日記に猫が現れるようになった。始まりはただの猫。二年前には黒い猫。半年たって白くなり。灰に黄色に京の藤。そして今では三毛の猫。

 まわりまわってフリップブック。今では影も形も無し。

 最初の猫はなんだったのかと探って見れど記憶はなく、実家の廊下に戻ってみれば、今では黄色と黒の線で描かれた140万が鎮座していた。

 猫のパズルを聞こうとも私の声はすり抜けて、冷たく鋭い何かが私の身体を貫き刺し笑んだ。

 大地転がり見上げた身体。顔無き私が見下していた。

 最後の最期でようやく気付く。見上げる他ないのだと。足元の闇から目をそらして、向けた先は頭上の希望。

 嫌だと叫ぶ本能すらも、私自身が無視をする。猛るだけの精神だけ。受け止めるだけの皿がない。剥き出しの私だったものが真っ赤に広がってゆく。

 凍てつく時間と溶けゆく私。

 切って捨てられオールリセット。下から生えるは次の首。

 最後に見たのは私だけ。空を見上げてる私だけ。

 綺麗な綺麗なパズルがあったんだ。本当にそれはあったんだ。