頭蓋解剖物語

ボロボロ書きます。剥がれ落ちる私を。

書留

 彼はまともな人でした。

 彼女は素敵な人でした。

 そんなの、とっくに知っている。

 彼がそんな状況だったなんて。

 彼女にとって苦だったなんて。

 そんなの、誰も知りえない。

 今はただ、悔しいです。

 心の整理が付きません。

 そんな言葉、よく言えたな。

 きっと彼は笑っている。

 きっと彼女は恨んでる。

 そんな言葉、二度と言うな。

 生者が、死者を語るな。

 死者の代弁者になったつもりになるな。

 他人の痛みはどうしたって、背中を押していたって、隣でずっと見ていたって。

 わかりはしないんだ。

 わかることはできなかったんだ。

 言葉のばんそうこうすらも、貼ることが出来なかった。

 凭れられる存在にすら、なれなかった。

 手を合わせて、悔いばかりを食んでは吐く。

 そうして生きる。と私は身勝手に決めただけ。

 忘れぬように、書き留めておいただけ。