空っぽの感覚だった。
生と死の狭間というのは月並みな言葉だ。
全身が冷え切っていた。右手だけが動き、左手は枕にしたため血液が絞られていた。
右手で身体をつねると、私の体では無い気がした。
雪も灰もつもらぬ冬。木枯し貫き鳴く閑古鳥。透明な吐いた息。ゴムのような身体。
生きているとは思えなかった。
その意識が死を否定した。
何をしていたか。それだけが分からない。
身体を無理やり起こした。
枕元に置かれたケトルの電源を入れ、いつのかも分からぬ水を沸かす。
記憶を繋ぎ止める日記を開く。ツギハギだらけの私達。揃いも揃って生を読む。彼らの生を引き継いで、少し生に近づいて。
ケトルの蒸気が私を現に引き込んだ。私の吐息には無い淡い白さがメガネを埋める。
カップの液体が部屋の中に広がる。眠気を掻き消す夜より暗い黒さが私の体を満たす。
そうしてようやく。私の身体に熱が篭った。その熱を口の猫は受け入れた。
スマートフォンを開いた、寝坊もいい所だ。されど地球は回っている。怒号も歓声も何もない。
店長は「普通だった」と語る。
異常だった。歪なままに私は始まっていた。
どんなに正であろうとしようとも、根が腐っては骨折り損で、意味はない。
「馬鹿だなぁ」なんて言葉を呟いた。
吐息は確かに白かった。