頭蓋解剖物語

ボロボロ書きます。剥がれ落ちる私を。

小説

冬中花痩

明朝、窓から差し込む陽が横たわる僕の体に降り注ぎ、目が覚めた。 けだるい体を起こして、今日一日を考える。快適な一日にするために、やるべきことを放り投げて一日だけでも悪い子になってやろうか。なんて事を考えている内に、一羽の鳥が窓枠に着地した。…

理解。

外に躍り出た鉄筋、タイルの間を走る苔、役目を終えた蛍光灯。 こんなところを待ち合わせ場所にしたハイセンスな君と、誘蛾灯に寄り添うかのように、フラフラと現れたナンセンスな僕、目配せをして、手を握って、点かなくなった緑の灯の下を、外に付けられた…

ココアとペペロンチーノ

紅葉の散った木々、薄暗くぼんやりと先の見える暗闇。微かに冬の到気を告げる風。 こんなに寒くはなかったはずだ。 あの夏をまだ覚えている。響いて残るような暑さと雨のもたらした湿気に支配されていたあの八月とは打って変わって冷え込んで、淹れたココア…

寒い。

雨降り積もる洗濯機、部屋に吊り下がる衣服類。酷く冷たい除湿の風に揺れるそれらを布団の中から見上げていた。 湿気だけじゃなくて、何もかも取り除いてくれればいいのに。 人との関係を切ったばかりだった。 卑屈になっていた。お酒がない。買えなかったの…

天使の羽。

それは確かに落ちていた。 砂塵舞う小さなベランダで、とうに干からびてしまった植物の前で、寂れた物干し竿に引っかかって、その存在を示していた。 それは、小さな小さな白い羽。光を放ち、綿のような質感を持った羽。その持ち主は恐らく、大きく空を飛ぶ…

現代南瓜絵巻

秋も中ごろ、神無月と呼ばれた月が終わりを迎えるその最後の一日。人間たちは一斉に騒ぎ立てた。かぼちゃをくり抜き、化物どもの格好でふざけ、神様がいない事を良いことに好き勝手暴れ始め、それを揶揄する者もいればその手に乗じる者もいる。 「人間とは不…

海の中の向日葵

「ねぇひまり。おばあちゃん家に行って来なよ」夏も終わりを迎え始め、セミよりトンボがウザったらしく思える頃に、母が一番ウザくなった。「なんで今言うかな」私だって始業式も一週間前に控え、残りの宿題を済ませる予定も立てていた。そう決めていたのだ…

理科室の中の眠り姫

桜の蕾が花開き、風と踊り空へ舞う。月曜の空は爽やかに晴れ渡り、入学式を経た新入生や入社式に参加した新社員といった新生活を始めた人々が歩みを進める。 そんな時、俺は橋の下で一つの植物を眺めていた。 いや、これは植物と呼んでいいのか。 アロエの様…

血で繋がれぬ貴方に。

「そろそろクリスマスの季節か……」 窓に積もる雪、男が一人で外を眺めながら感傷に浸る。 「何しみったれた顔してんのお前?」 突如、屋根裏から出て来たのはこの屋敷の居候だ。 「いいだろ少しくらい、私にだって人肌の恋しい時があるのさ」「俺がいるじゃ…

「ありがとう」

僕は化物。人間じゃない。 だから今日はトマトの被り物を被ろう。 真っ赤な実に白い光沢、少しばかりの青いへたが少しばかりいいアクセントになっていると思う。そんな被り物をかぶっても僕はしっかり周りが見える。 だから僕はいつも、被り物を被って外に出…

君は分かるのに。

午前5時の早起きにも慣れてきた、最近はいつもこの時間だ。漁業を営む両親ですら、まだ起きる時間ではない。というか俺はまだ船にも乗せて貰えるほどの腕が無い。 「お前はまだまだ未熟だからな。道具の使い方からだ」 父親の一言が俺の心に波を打って響く…